お遍路体験
お遍路体験
はじめての歩き遍路(発心の道場)

★交通新聞社「旅の手帖」2003年5月号で取材させて頂いた、阿波の国・一国めぐりの体験記です。
歩いた季節は2月の8日間。7日間の予定が1日延び、そのうえ全てを自分の足で歩く事が出来ず、タクシーを利用したり、知り合いになった方の車に乗せて頂いたりと、普段運動不足でなまりきった体には非常に厳しい体験でした。ひたすら歩き続けるだけのシンプルな1週間でしたが、何年経っても忘れる事の無い、豊かで貴重な思い出です。


お遍路体験
2月17日(月)晴れ
(1〜5番札所)霊山寺・極楽堂・金泉寺・大日寺・地蔵寺
徒歩11km 宿泊:森本旅館(¥6000)

1番のお寺を参拝する前に、隣の門前一番街という遍路用品店に立ち寄った。ワクワクして品を選ぶ。正装が整うととすぐに1番札所霊山寺を参拝。しかし、慣れない菅笠や右手の杖、左手の数珠が落ち着かないうえ、経本を取り出しても、隣でペラペラと暗誦するおばちゃんに圧倒される。しかも白衣を着用するのは普通だが、ズボンも白くて手甲まで着用している人はあまり見かけない。内面外見ともに浮きっぱなしだ。2番の極楽寺ではおじいちゃんが「写真を撮らせて」というので喜んでモデルになる。するとお礼にと、彼の奥さんにお接待のあんこ餅を頂いてしまった。複雑な気持ちだ。

2月18日(火)晴れ
(6〜10番札所)安楽寺・十楽寺・熊谷寺・法輪寺・切幡寺
徒歩14.3km 車2.4km 宿泊:民宿 坂本屋(¥6200)

朝6:00にご飯を食べて7:00には宿を出た。お遍路の朝は早い。お寺の納経所は17:00には閉まってしまう。ひんやりした空気が清々しく、犬の散歩をする人とも自然に挨拶が交わせる。背中の荷物が重過ぎたので、宅急便で一部を自宅に送り返した。長距離を歩くので、足への負担を少しでも減らしたい。まだ2日目なのに既にふくらはぎが痛み出している。普段、座り仕事で体を甘やかしているため、歩き慣れている50代のペースにも追いつかない。まぁ、ゆっくりやろう、と思い直し、穏やかな風景や人との出会いを楽しむ事にした。納田さんという方に、お接待で8〜9番札所間を車に乗せてもらった上、お昼のうどんをおごってもらった。

2月19日(水)晴れ
(11番札所)藤井寺
徒歩9.8km 宿泊:さくら旅館(¥6000)

朝、焼山寺の手前にある柳水庵に今日の宿をとろうと電話をしたら繋がらない。朝食で荒木さんという方からもう柳水庵はやっていないと聞き驚く。焼山寺は山の中。近くに宿は無いので、山の手前の藤井寺付近で宿をとることにする。荒木さんから色々教えて頂いて、宿の問題を解決する事が出来た。遍路宿の食堂では、そういった情報が得られるので一人歩きの身でも心強い。朝食を終えて早速出発。巡礼装束はすっかり体に馴染み、杖をつくテンポも自然になって来た(昨日は参拝後うっかり杖を忘れそうになったりしていた)。民宿坂本屋から30分ほど民家の間を抜けて行くと、土手を越えて吉野川に潜水橋に出る。ここを堺に空気が変わり、街の音が消え、小鳥のさえずりに包まれる。橋を渡ると宮崎アニメに出てきそうな、穏やかな風景が広がった。しかしもう一度潜水橋を渡ると、排気ガスを浴び、大型トラックの風圧に菅笠を飛ばされそうになる。先程の田園風景は幻だったのでは、とさえ感じた。


2月20日(木)雨のち雪のちくもり
(12番札所)焼山寺(標高800m)
徒歩12.3km 宿泊:なべいわ荘(¥6825)

昨日までは穏やかな町中でお天気にも恵まれ、全く修行らしく無かったのだが、今日は徳島でも一番の難所・焼山寺へ向かう。しかも前日深夜から雨。私は信仰心のある人間では無いが、試されているような感じがした。さくら旅館を出る時にご主人と奥様からお昼に食べるようにとおにぎりの接待を頂く。焼山寺へ向かう途中には一見も店が無いので持たせてくれたのだ。別れの挨拶をしながら袋の中を覗くと手書きでびっしりと書かれた手紙が見えて、不意をつかれたように涙が出た。

昨日の夕飯時に友達になった大学2年生の友子ちゃんと山を越える事にした。「遍路ころがし」と言われる山道は急勾配でとても変化に富んだ道だ。杉の落ち葉の上などを歩くのはクッションが効いていて、アスファルトの道を歩くより足裏に優しい。しかし勾配がきつく、肩や足腰が痛む。雨は標高が高くなるにつれ雪に変わり吹雪になった。ただひたすら歩く。頭が空っぽになり、焼山寺についた時の達成感は格別だった。

2月21日(金)晴れ
(13〜15番札所)大日寺・常楽寺・国分寺
徒歩30km 宿泊:旅館 鱗楼(¥8190)

友子ちゃんと一緒に歩こうと、なべいわ荘を共に出る。昨日までの疲れから、ふくらはぎがカチカチになっていて強烈に痛んだ。それでも歩き始めると体が温まって筋肉がほぐれ、痛みがやわらいで来る。友子ちゃんは足に大量のまめが出来ていた。原因は履き慣れた靴じゃなかった事らしい。途中、四国霊場合同の墓地があった。遍路で行き倒れた人のお墓なのだろう。自然と手を合わせている友子ちゃんの横顔を見て切なくなった。「何の為に歩いているの?」問われた気がした。ひたすら県道を歩いていると、軽トラックの植木屋さんが車を止めて栄養ドリンクをくれた。お礼を言うのが精一杯でろくに会話を交わす事もできず、彼は去って行った。更に大型トラックの運転手さんからおいなりさんと和菓子の包みを頂き、しばらく歩くと軽自動車のお姉さんから菓子パンを頂く。もらい過ぎだ。完璧なお遍路姿が目立ち過ぎたのかもしれない。途中、やせ細った野良犬に少し分けようと思ったが、近所の方が餌付けは困ると言うのでやむなく断念。犬の視線が痛い。

2月22日(土)雨時々くもり
(16〜19番札所)観音寺・井戸寺・恩山寺・立江寺
徒歩10km 車17km 宿泊:立江寺 宿坊(¥5775)

観音寺は住宅街や商店街などが続く街の中にあり、近所の人が朝のお参りに来ていたりと大変のどかだ。仏足跡という釈迦の足跡を記したものあり、礼拝した手で身体の悪い所を撫でると良いとの事だったので、痛む足を撫でて次の寺へ。井戸寺の本堂は素晴しかった。殆どの寺ではご本尊を見る事は難しいが、ここではそれが可能。四国霊場の中で唯一の七仏薬師如来で聖徳太子の作と言われている。その前にお守りや数珠が売られていて、天井からはきらびやかな天蓋が下がっている。店番のお母さんが「今日のご本尊は優しいお顔をしていますよ。時間によって表情が変わるの。光線の加減なんでしょうね。」と話してくれた。色々な参拝客とはなしをするそうで、最も凄い方は北海道の網走から歩いて来たとの事。そういう方こそお接待を受けるべきなんだろうと思った。弘法大師が一夜にして掘ったと言われている井戸を覗き込んでみた。井戸に自分の姿が映ると幸福になるとか。幸い自分の姿を見る事が出来たので、ホッとして100円の井戸水を買う。その後一時間程歩いたが、前日30km歩いたのがこたえて恩山寺までタクシーに乗ってしまった。


2月23日(日)くもり
(20〜21番札所)鶴林寺・太龍寺
車10.5km 徒歩10km 宿泊:龍山寺(¥6500)

立江寺の宿坊に泊まったが、冷暖房完備でテレビ付きの個室だった。食事も精進料理かと思いきや、普通の宿と変わりなく、ご飯・半田そうめん・酢の物・煮物・刺身・ごま和えにデザートのバナナと草餅付くという内容。他の遍路宿と変わらぬ充実ぶり。お寺で刺身ってアリ?風呂も広々。おまけに、たまたま行事の都合で朝のおつとめも無かった。やはりお遍路の修行は道にあるのか?今日は、徳島で第2・第3の難所と言われる山道なので、タクシーを利用して他のお遍路さんに山の麓まで同乗させて頂いた。山道だけは自分の足で歩く事にした。鶴林寺までの山道は急な登りから、大きな石がゴロゴロした坂へと続く。それでも焼林寺に比べたらまだ楽。1時間で登りきってしまった。鶴林寺からは一旦下山し、水井橋を渡って太龍寺の山に入る。川のせせらぎが体に染み入る。自分が山の一部に溶け込んで行くようだ。東屋があったので、持参していたチョコレートと井戸寺のお水で休憩する。そこから暫く歩くと本格的な上り坂。汗が吹き出して目眩がしたが、見晴らしの良い所でふと顔を上げると、遠くから山々がひたすら続いて美しかった。

2月24日(月)雨のち晴れ
(22〜23番札所)平等寺・薬王寺
徒歩14.7km 車17.7km 宿泊:薬王寺 宿坊(¥5775)

今日で一国巡りが終了する。名残惜しい気持ちでいっぱいだ。体力がついたようで、足や肩の痛みが辛く感じなくなった。木製の杖の先はだいぶ減り、読経も流暢になって来た、人や自然を見つめる以外に娯楽など何も無いが、不満どころかむしろ頭が研ぎ澄まされて行くのを実感した。「お四国病」というのがあると聞いたのを思いだす。どんな恐ろしい病気かと思ったら「お遍路にはまっちゃう」事らしい。国道沿いを大型トラックに菅笠を飛ばされそうになりながら、ただ黙々と歩く。後ろから来た車のおじさんが「運んだろか?」と声をかけてくれたが、丁重にお断りした。暫く行くと分かれ道に偶然いたおばあちゃんが「右を行く方が昔からの道やで」と教えれくれた。道端で車にひかれた猫を見て。思わず数珠を持つ手で拝む。路上には計り知れない出会いが交錯する。また後ろからクラクションを鳴らした車が止まった。なんと、7番札所の十楽寺で会った河野さん。7日ぶりの再会だ。これも大師のお導きかな?と思い、車に乗せて頂いた。今まで私の目の前に現れた全ての事、それが「同行二人」と言う事だったのかもしれない。


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